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「誰にも言わないで」という「つなぐ」

更新日:2020年6月5日

筆箱がなくなった時に、つなぐは、「誰にも言わないで」と強く母親に言った。この言葉の意味をいまだに噛み締めている。いじめが起きてから3年後、いじめ調査の第3者委員会(町教育委員会設置)でも、本人の意見聴取があった際に、当時聞き取りを行った弁護士が「いじめは犯罪なんだよ。だから何をされたか正直に言いなさい」と言った。つなぐは少し言いよどんだが、いじめの事実は弁護士に伝えた。

 私は、この「誰にも言わないで」という言葉の意味、を噛み締めている。間違ったことは許されないのだから、事実を明らかにすべき事は正論である。「正しい」事である事はつなぐも、私も知識として知っている。しかし、正直に事実を言った時に、素直に大人は受け入れてくれるのだろうか?当然、相手がある事だから言い分、事実関係の誤認、ズレもあるだろう。言った後で、周りがどう反応するのかも気になる。

 調査する側、指導する側は、本当にいじめられた側や、事実を告発した側に立って問題解決してくれるのだろうか?強い正義感だけで行動した結果、被害者が守られない事もある。つなぐは、自分を守ってくれるのだろうか?いじめの事実を、学校や教育委員会は「あってはならない事」という認識にたって調査しようとしている。あって当然の事に、いまだになっていない。

 いじめ認知件数は毎年増えている。もちろん、実際にいじめも増えているだろう。それ以上に、自分のいじめの事実を言ってまわりが真剣に取り上げてくれるのだろうか?といういじめられている子どもの不安が大きく、これまで告発されてこなかった。つなぐの認知も同じだった。学校の中には見えない「身分」(カースト)や、お互いの評価が存在している。アイツは、弱いやつ、少しからかっただけで先生や親にチクるヤツ。そんな評価をされたら、その価値を変えるには相当の時間と労力がかかる。

 つなぐが「先生には何も言わないで」と言っていた事。私が教師に、「先生がたが何かをすると、本人が苦しくなる」と言った背景は、そこにある。つなぐも親も「事実を追求するよりも前に、本人の安全、安心を確保してください」とずっと言い続けてきた。その後で、実態を解明すればいい。たとえて言えば、事故が起きたら、まずけが人を病院におく流のが先である。その後現場検証をする。しかし、教師は事実を追求すること優先し、けが人からその場で聞き取ろうとしたり、犯人探しを現場で行おうとする。それでは、いじめられた本人は誰が守ってくれるのか?私は親として、このような対応をいまだに許してはいない。いや、むしろその素人さに危険を感じている。教師は、事実の究明だけを安心、安全の確保だと思っている。事実の追求をする。事実の追求に熱心ではない親に対して、教師はどうしていいのかわからなくなったのが初期の対応のズレだと思っている。

 この価値観のズレは、相当大きい。しかし、教師の中には、私やつなぐの言っている意味を理解する人もいる。その先生は、「教師が生徒を指導する」ことの限界を知っている人たちだ。事実の認識をしっかりできている人だと思う。生徒は、自分がいじめをしているなんて思ってもいない。むしろ、「弱々しいやつを助けている」と思っているかもしれない。この認識のズレを柔軟に理解しない限り、自分たちに罰を下す教師の目をかいくぐればいいという子どもたちの前に教師は、全く無力である。

 子どもは、誰だって自分をわかろうとしない人に口を開かない。つなぐも他の子どもたちもそこは同じだ。教師は、なぜそこが見えないのか?いじめられている子どもの視点、いじめている子どもの視点から事実を多角的にとらえ、分析する視点が抜け落ちているからである。

 これでは、いくら2013年に「いじめ防止法」が制定されたとしても、いじめはなくならない。今日においても、過去のいじめのケース研究が進まない要因は、まさに、現場において「いじめはあってはならない事」でしかない。つまり、事実の認知のレベルで止まっていて、一つ一つの分析は非常にお粗末極まりない。




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